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化学分野で特許を取る!

化学の分野において特許を取得するときは、権利範囲を確定する特許請求の範囲(クレーム)において、他の分野では見られない方法で発明を特定する場合があります。

化学の分野に見られる特許請求の範囲

(1)新規物質の場合

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新規物質(化合物)について特許を取得しようとする場合は、化学式・化学構造式を用いて、その新規物質を特定します。例えば、一種類の新規物質を発明した場合は、特許請求の範囲には、その新規物質の化学式を記載することが原則です。しかし、その新規物質の一部の置換基を変えた化合物も、新規物質であり、しかも、似たような特性が現れることがよくあります。そのような時は、新規物質を包括的に保護するために、化合物の置換基の部分を-Rとし、「Rは、炭素数1~10のアルキル基」などと表現すれば、比較的広い範囲の権利が得られやすくなります。例えば、「RCOOH (式中、Rは炭素数1~10のアルキル基を示す」などと特定します。

しかし、いくら権利範囲が広くなるからといって、Rを広い範囲に特定してもよいのでしょうか?例えば、Rがメチル基の場合の実験(実施例)しか行われていないのに、特許請求の範囲に「Rは炭素数1~100のアルキル基を示す」と記載しても認められるのでしょうか?ここで化学の分野で通常の知識を有する者(当業者)であれば、Rの炭素数が1の場合と、100の場合とでは、その特性が大きく変わることが予想できます。Rが1の場合の実施例だけでなく、Rが70、90、100などの実施例がなければ、どのような効果があるのか、確認できません。したがって、このような場合は、サポート要件違反として、特許法第36条6項1号の拒絶理由がかかります。さらに、Rが炭素数1~100である化合物が記載されている特許請求の範囲を見た第三者がその化合物を作るときに、炭素数1の実施例しかなければ、その実施例のみをみて、Rが炭素数100のアルキル基の化合物を製造することはできないでしょう。このようなことが考えられる場合は、実施可能要件違反として、特許法第36条4項1号の拒絶理由かかります。

したがって、実際の実施例に対して、特許請求の範囲が広すぎる場合は、このような拒絶理由を有することになりますので、適切な数値範囲にする必要があります。そして、特許請求の範囲を広く記載したい場合は、広範囲な実施例を行い、明細書に記載する必要があります。

また、新規物質を発明した場合は、新規な物質であることを明確にするために、明細書にNMRデータや元素分析などの実験データを明細書に記載する必要がありますし、仮に新規物質を発明したとしても、その用途(有用性)がなければ、発明とはみなされませんので、用途及び特性を明細書中に記載する必要がありますので、これらの点に注意して、化学分野の特許出願書類を作成しましょう。

(2)新しい組成物(混合物)を発明した場合

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組成物とは、複数の成分を含むものです。したがって、特許請求の範囲の記載は、A成分と、B成分と、C成分とを含む、○○組成物」という表現になるのが一般的です。通常、各成分の混合割合は必須ではありませんが、組成物の成分割合が、特徴的な場合は、成分割合を特定して、数値の範囲を限定します。また、組成物は、何かの用途(目的)があって各成分を混合しますので、その用途を記載します。例えば、「接着性組成物」などと記載します。

明細書には、その組成物の状態を特定できるように記載した方が好ましいです。例えば、粉体、エマルジョン、液体などがあります。

特許性を高めるために、明細書には、その組成物はどのような効果を奏するのかを十分に記載してください。また、その効果を示すために、明細書の実施例(例えば、成分割合を変えたもの等)で、実験結果を示す必要があります。さらに、その組成物が優れていることを示すために、従来の組成物も同様に調製して、従来の組成物よりも、どの程度優れているかを明示することにより、本発明の特許性を高めることができます。新規組成物の効果を十分に主張できるように、多くの比較例を記載し、組成物の有用性が理解できるようにしましょう。

(3)数値範囲を伴った発明における考え方

ある組成物がすでに公知である場合、単に各成分の数値範囲を限定しても、効果が同じであれば、実験的に数値範囲を最適化したにすぎないと解釈され、通常の創作能力の発揮と見られてしまい、進歩性があるとは見てもらえません。

しかし、「限定された数値の範囲内で、刊行物に記載されていない有利な効果であって、刊行物に記載された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できた」場合は、進歩性があると判断されることがあります。したがって、公知の数値範囲の中に、自分の発明の数値範囲が含まれていたとしても、異質な効果や極めて優れた効果がある場合は、進歩性がある可能性もありますので、先行技術文献にどのような効果が記載されているかどうかは、しっかりと確認する必要があります。

特殊なクレーム

(1)用途発明

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特許法では、通常公知の発明には特許は付与されません。しかし、化学の分野では、既知の化合物であっても、従来知られた特性とは異なる特性を有することが発見される場合があります。このように、従来は知られていない効果があって、製品に応用できる考えられる場合は、用途発明として特許性があると認められる可能性があります。

特許請求の範囲の書き方としては、化合物そのものに用途限定をしてもそれは認められません。例えば、請求項の文言に「○○用化合物X」のように、用途を加えて用途を限定したとしても、用途限定のない「化合物X」そのものと解されてしまいます。したがって、特許請求の範囲に「○○用化合物X」と記載したとしても、審査では化合物Xが記載されている文献が引用されて、新規性欠如の拒絶理由を有することになります。

しかし、例えば「化合物Xを含む(を含有する)○○用組成物」のような記載であれば、用途を限定した組成物として審査されます。特許庁審査基準の対応部分を抜粋します。

(審査基準の抜粋)
「「特定の4級アンモニウム塩を含有する電着下塗り用組成物」と、「特定の4級アンモニウム塩を含有する船底防汚用組成物」とにおいて、両者の組成物がその用途限定以外の点で相違しないものであったとしても、「電着下塗り用」という用途が部材への電着塗装を可能にし、上塗り層の付着性をも改善するという属性に基づくものであるときに、「船底防汚用」という用途が、船底への貝類の付着 を防止するという未知の属性を発見し、その属性により見いだされた従来知られている範囲とは異なる新たな用途である場合には、この用途限定が、「組成物」を特定するための意味を有することから、両者は別異の発明である。」

さて、このような用途発明で特許を取得するために大切なことの一つは、特許出願時に、用途発明の効果をしっかり記載することです。これは用途限定した組成物の発明に限らず、化学系全般の発明に言えますが、特許請求の範囲内の化合物(組成物)の効果を、特許請求の範囲外の比較例と比較しながら、効果があることを記載することが大切です。用途発明の場合は、すでに化合物が既知なわけですから、なおさら、化合物の既知の効果とは異なる、別の効果があることを明瞭にかつ十分に記載することが大切です。

また、特許出願する発明が、新規な化合物であったとしても、その化合物の開発段階で異なる効果を見つけた場合などは、後願を排除する目的で、その効果を明細書に記載してもよいでしょう。ただし、その効果についても、将来特許取得したいと考える場合は、先願による拒絶を回避するために、効果を先願の特許出願の明細書に記載をするかどうか、検討しなければなりません。

なお、日本では、「公知の物の新規用途に関する発明」を「物の発明」として特許を得ることができます。一方、米国では用途を限定して「物」としての特許を得ることができません。したがって、米国では、表現を工夫するか、方法の発明とする必要があります。このように、用途発明の取り扱いは、各国で異なりますので、各国の弁理士からアドバイスを受けることをお勧めします。

このような用途発明ですが、裁判例は多くあり、例えば、東京高裁 昭和54(行ケ)109 S59. 6.21では、「いわゆる用途発明とは、物の一属性に基づき、その物をある特定の用途に用いることについての発明であって、その発明の成立には、その用途について発見的であることと、その確認が明確にされていることが必須である」と判示しております。

また、他の裁判例としては、東京高裁 平成10年(行ケ)401 H13.4.25があり、「用途発明は、既知の物質のある未知の属性を発見し、この属性により、当該物質が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明であると解すべきである」とあります。

用途発明は、効果を比較することで、特許性が生じますので、後願を排除するためには、新規な用途と思われる部分に、当業者が反復継続して所定の効果を挙げることができる程度まで具体的・客観的なものとして記載され、顕著な効果の存在を示すことが必要です。

(2)プロダクト・バイ・プロセスクレーム

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プロダクト・バイ・プロセスクレームとは、製造方法(プロセス)によって物(プロダクト)を説明する請求項のことで、化学分野ではときどき見かけるクレーム形式です。化学分野では、物を構造により特定できない場合がありますが、このような場合に、プロダクト・バイ・プロセスクレームを使用して、表現します。

プロダクト・バイ・プロセスクレームの権利範囲は、どのように解釈されるのでしょうか?プロダクト・バイ・プロセスクレームは、物の発明である以上、製法が異なっても出来上がった物自体が同一であれば同じであり、その物に権利範囲が及ぶとする考え方(物同一説)と、請求項に記載されている技術であるから、その物の発明は、特許請求の範囲に記載した製造方法に限定されるべきとする考え方(製法限定説)とがあります。

最高裁判決(最高裁平成27年6月5日判決(平成24年(受)第1204号))は、「技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解する」とし、物同一説を支持しております。その一方で、プロダクト・バイ・プロセスクレームは、プロダクト・バイ・プロセスクレーム中の「製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのかかが不明でありどの範囲において独占権を有するのか予測可能性を奪う」と指摘し、そして、「特許法36条6項2号に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる」としております。すなわち、プロダクト・バイ・プロセスクレームが使用できるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られ、それ以外のときは、不明確である(特許法第36条6項2号要件に違反)としております。

2015年7月に特許庁から出された「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査の取扱いについて」も、最高裁判決を踏襲しており、「不可能・非実際的事情」がなければ、拒絶理由になります。したがって、プロダクト・バイ・プロセスクレームを作成する場合は、今以上に十分注意を払う必要があります。例えば、明細書中に、「得られる物質は、出願時の技術では構造として特定できないため、特許請求の範囲は、製造方法により物質を特定する」と記載し、なぜ、特定できない理由等も記載する必要があると考えられます。

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